Zero-Alpha/永澤 護のブログ

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築地5


「2004.7
社会福祉基礎構造改革試論
ー次世代のケアマネジメントシステム=コミュニティーワークの構築
へ向けて

1.序論―生存権との関わりという視点から見た社会福祉基礎構造改革(社会福
祉法)の原理論的位置づけ
 現代の社会福祉は、(1)国家責任による、国民の権利としての社会福祉 (2)問題
別に対応する多様な対策・福祉サービスの展開としての生活保障 (3)ケースワー
ク等福祉援助の専門技術の発達という特質を持っている。従って、現代の社会福
祉制度は、これらの特質を具体的に満たしたものでなければならない。(1)に関し
て、日本国憲法はその第25条の生存権規定において、国民の健康で文化的な最
低限度の生活を営む権利を明らかにし、また同条第2項は国が社会福祉、社会保
障及び公衆衛生の向上及び増進に努めるべき責務を規定している。また、(2)に関
して日本政府は、2000年に介護保険法を施行、社会福祉法を制定・施行し、社会
福祉の基礎構造改革を推進していくことになった。
上記のように、わが国の社会福祉基礎構造改革は、介護保険法によってその具体
的な姿が制度的に展開されているといえる。また、社会福祉法は、この介護保険制
度の存立基盤を形作るものとして、これまでの「措置制度」から「利用・契約制
度」への構造的な転換を可能にする根本法である。同法第3条「福祉サービスの
基本的理念」には、「福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、
福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成され、又はその有する能力に応
じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適
切なものでなければならない」とある。これは、(1),(2),(3)を具体的に充足すべ
き現代社会福祉の理念を述べたものといえる。
 生存権の法的権利に関して、最高裁判所は、生存権は国民の生存を確保すべき
「政治的・道義的な義務」を国に課したにとどまり、個々の国民に対して具体的
な権利を保障したものではない。憲法第25条を直接の根拠にして生活扶助を請求
する権利を導き出すことはできず、それは生存権を具体化する法律によって初め
て具体的な権利となるとの解釈を示している。しかし、憲法第25条は、国に立法・
予算を通じて生存権を具体的に実現すべき「法的な義務」を課しているのであり、
憲法第25条の生存権が生活保護法のような、すでに施行されている法律によって
具体化されている場合には、憲法とそれら法律を一体としてとらえ、生存権の具
体的権利を国に対して請求することができる。何が健康で文化的な最低限度の生
活水準かは、福祉の主体であり主権者である国民が民主的かつ客観的に決定すべ
きである。上述した社会福祉法の「福祉サービスの基本的理念」は、このような
国民による決定をそのつど反映したものでなければならない。社会福祉法の主な
内容としては、福祉サービスの利用制度化、社会福祉事業の追加、権利擁護制度
や苦情解決制度等の利用者保護制度の創設、社会福祉法人の認可要件の緩和、市
町村に対する地域福祉計画策定の義務化等が挙げられる。これら社会福祉制度の
実施過程において、具体的な権利として生存権が保障されていく必要がある。
2.「介護保険制度と障害者福祉との統合」という視点から見た現状とその課題
について
現在、介護保険制度の根底からの見直しが具体的な政策日程として登場してき
ている。その主なテーマは、「介護保険制度と障害者福祉との統合」である。そこ
で、以下の論述においては、各論として、この「介護保険制度と障害者福祉との統
合」というテーマが現状においてどのような形を取っているのか記述する。
2004年7月14日付の各報道によれば、厚生労働相の諮問機関・社会保障審議
会の障害者部会(京極高宣部会長)は、高齢者介護と障害者福祉施策の統合問題
について、「現実的な選択肢の一つとして広く国民の間で議論されるべきだ」とす
る中間報告を正式に了承した。これを受けて、同審議会の介護保険部会は、七月末
をめどに介護保険制度改革の方針をまとめることになった。障害者部会は、障害
者福祉施策と介護保険の関係について、支援費制度など現行制度についての制度
改善によって制度的な統合を図る方針であり、独り暮らしや痴呆高齢者を地域で
支えるサービス体系について「地域生活重視の障害福祉の流れとも一致する部分
が多い」としている。また、統合の費用について「公の責任として公費で実施す
べき」とした。次に、2004年7月10日付の各報道によれば、健康保険組合連合
会は7月9日、介護保険制度の見直しや新たな高齢者医療制度に関する中間報告
書において、介護保険と障害者施策との統合について慎重な見解を示した。介護
保険と障害者施策との統合に慎重な理由としては、「障害者の範囲(身体、知的、
精神)、サービス内容、財政試算など不明確な点が多い」点を挙げた。加入者の年
齢(現行45歳以上)の引き下げに関しては「新たに保険料を負担することにな
る若年者や事業主の理解、納得が必要不可欠」とした。
 このように、政策サイドにおいては「統合」の方向性が確定しつつある。だが、その
ための財源・予算措置が現状の障害者福祉のレベルを低下させることなく保障されるの
か、という問題の「具体的な解決」は先送りされている。このことが問題点として指摘
できよう。この点については、予てから「全国自立生活センター協議会」等のさまざま
な当事者団体・個々の障害者による根強い批判があり、介護保険制度という一元的な枠
組みの外部でこれまで構築してきた自立的な介助ネットワークを活性化していこうと
いう当事者たちの志向性を今後どのように政策的に位置づけていくのかという根本的
な課題が浮上している。
なお、この点に関して、2004年6月8日付の各報道によれば、知的障害児・者と家族で
つくる「全日本手をつなぐ育成会」(32万人、東京都港区)が統合に賛成する意見書案を
まとめたことが判明した。厚生労働省と協議している身体・知的・精神障害者の8団体
のうち、初めて賛成を打ち出したこと自体は注目に値するが、逆に言えば、政策決定直
前の現時点で明確に賛意を表明したのが僅かに1団体のみであるという事実が、かえっ
て「介護保険には上限があり、必要な介護を受けられなくなる」「高齢者と障害者のサ
ービスの内容は違う」といった当事者たちの強い不安を示していると言える。意見書案
にある、03年度にスタートした障害者支援費制度が「財政的破綻状態」であり、現状の
ままでは障害者の地域生活を支えるサービスの増加に対応不可能である、よって「安定
財源を保障するため介護保険との統合は必然」との結論は、財源・予算措置による保障
という問題の具体的な解決が先送りされている以上、厚労省による「40歳以上となって
いる介護保険の被保険者年齢を(例えば20歳以上に)引き下げることにより統合を図る」
という結論から逆に導出されたものに過ぎないという批判も可能であろう。
 3.以上の現状を前提としたわが国の社会福祉制度の展望についての問題提起――次
世代の介護保険制度の構築に向けて
 介護保険制度は、社会福祉サービスを利用・契約制度へと構造転換させることを
目的とする社会福祉基礎構造改革の骨格をなす制度であり、要介護度に応じて保
険給付の上限を定める方式により、我が国の総合的な福祉・医療・保健政策に関
わる財政を安定化させることを主要な目的としている。制度の要となる専門職は
介護支援専門員(ケアマネジャー)であり、ケアマネジャーは、在宅医療・在宅
福祉において広い意味での「症例管理者」として従事するさまざまなコ・メディ
カルスタッフの核として、回復期あるいは安定期のケアをスムーズに行う役割が
期待される。  
福祉・医療・保健各領域のスタッフが連携する現場においては、一人ひとりの
コ・メディカルスタッフが、個別化の原則に従いながら痴呆高齢者を始めとする
個々の患者や要介護者についてケアの一貫性と連続性を保障していくことが不可
欠である。ケアマネジャーは、福祉・医療・保健の現場における核となる専門職
として、今後さまざまなコ・メディカル領域からの参入が求められている。
 多様なコ・メディカルスタッフがお互いに対等な立場でチームワークを組むこ
とによって、それぞれの地域での総合医療保健施設及び診療所・保健所と老人保
健施設・在宅介護支援センター・在宅介護関連企業等の連携を強化し、痴呆など
の慢性疾患の発見・予防・治療と在宅ケアの一貫した継続性を保障することが今
後の緊急課題となる。その際、医師もこうしたコ・メディカルチームの一員とし
て、相互に対等なスタッフによる専門的な協議に基づく合意に従う義務が生じる
ような制度の構築が必要になる。ここでの論点は、福祉・医療・保健の連携が必須
となった現状においてすら医師のみの専権を保証する現状の制度を変革する必要
があるということである。すべてのコ・メディカルスタッフが、コ・メディカル
チームの一員としてそれぞれの専門的役割を果たすことに対して保険で直接支払
われる制度的な枠組みのもとで、より合理的に、的確に、そして安価な治療と介
護が利用者へと提供されるようにしていくべきである。こうした社会的な基盤の
もとで、コ・メディカルの専門家たちが、専門家として独立して活躍が可能な収
入が得られるように、コ・メディカルチームワークという観点から必要とされる
医療行為それ自体が医療保険や介護保険の報酬請求の点数となるよう制度を変え
ていく必要がある。
上記の論点は、医師のみが制度的に特権的な地位を保証され、コ・メディカルチ
ームワークの民主的な合理性に依拠しない財政支出が繰り返されるわが国の現状
を変革することによって、上述の「統合」に関わる財政的担保の問題を具体的に
解決する第一歩を踏み出すべきということである。しかし、今後、(精神障害者・
児童の知的・身体障害者を含めた)障害者福祉と介護保険との「統合」を前提と
した場合、上記にもましてさらに根本的に重要であると思われる論点は、介護保険
を基盤とした高齢者福祉と障害者福祉の「統合の理念的かつ具体的条件」として、
「全国自立生活センター協議会」等の当事者団体による自立的な介助ネットワー
クと、ケアマネジャーを始めとする既存のスタッフが不毛な「対立関係」に陥る
ことなく、お互いに対等な立場で、多様で柔軟なチームワークを組むことが制度
的に保障されるべきであるということである。上記のコ・メディカルスタッフに
よるチームワークは、このような、これまでとは次元を異にした「福祉ミックス」
の手法を次世代のケアマネジメントシステム=コミュニティーワークとして構築
するための不可欠の前提条件として位置づけられる。


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